オリジナルリトプレス機


バイト中に天啓下る

来年の二月に銀座で個展をすることになった俺。天地の歯車が寸分の狂いもなくきっちりと嵌り、まるで石臼を引く様な音を上げて運命の輪転が動き始めたように思える今日この頃。
されど天は雲海のきらびやかにうねり散らす大空を優美な指で指し示し「さあ存分に飛ぶがよかろうと」とサラウンド的にニュルンベルクの党大会的に重低音で胃の腑に異物を埋め込む様に言ったものの、はて?イカロスみてえな翼の生えたイケてる靴はどこよ?てな具合に、大きな作品を刷るリトプレス機は何処にありしや?と時間差で攻めて来る俺の脳はアウェー。

しかし、ほうけ続けているわけにはいかない。こうしている間に三蔵法師は天竺をめざし、ヤマトはイスカンダルまであと何キロとワープを繰り返している。

ビジョンはすでに見えるならば、あとは実体が残像を重ねて追いつくのみ、素早く後先を考えずに動かなければならない。飛んでいるトンボの羽が見えにくいように。

工房等にに行くのも吝かではないが、四畳半のリトグラフの看板を標榜してる以上、何らかの答えを出さねばならないだろう。

先日、バイト中にポンと出たアイデアが奇妙に引力を持つものだったので、採用する事にした。もしそれが出来たなら、熱さまシート並みの発明になるに違いないだろう。
早速制作に入る。
お楽しみに!
ここ最近の寒さは風に乗って殊の外厳しく俺たちの肌を刺す中、主なパーツを買いに新宿の東急ハンズに行く。
マテリアルフロアを物色してこれらのものを加工してもらい、家で組上げて見た。
俺の脳内演算が弾き出した所では、こいつは間違いなく稼動すると出たが、はたして、、、、、












平らである事が重要なので、アルミの資材を使う。その上にある木はアルミも長くなると緩やかに歪曲するので、この木とそれに付けたネジで圧を調整するようにした。

潤滑油にグリスを塗るも、べたべたと手や床いついて不快に。


さてその刷り具合の程は?

意外とちゃんと出ている所もあるが薄いところもある。力が分散し設置面に強弱がついてしまったようである。平らで強度があり、接触面の面積が程よいサイズのスキージ(大雑把に言えば、なが細いヘラのようなもの、これがもの凄い力でインクを紙にこそげうつす)を用意する必要がある。
やはりアルミと木の棒状プレス機では鋼鉄製のプレス機の狂ったような強圧の世界にはなかなか至る事が出来ないようだ。まさにプロとアマの差と言った所であろうか。
もう少し改良してもいいが、このざらつき感はこれはこれで悪くないような気もするので、取り合えずこれで制作してみようと思う。
それにしても、こいつで刷るとかなり疲労する。やはり何百年に渡って改良されて来た現今のプレス機は偉大な知恵の結晶の煌めきがある事をこの一連の制作行程で染み入るように了解した俺だった。













高校の友人がリトプレス機を作ってくれる

今年の始めに制作を開始した自作リトプレス機は前述のブログにあった様に、そこそこの性能を発揮したが、やはり如何せん低コスト低技術で作られた素人仕事では不備が多過ぎ、前途に立ち込めた暗雲に足がすくんでいた俺であった。だがある日、そう言えば俺の高校時代の同級生が鉄鋼加工を生業としている事を思い出した。直ぐさま俺はその男、竹中に連絡して強度のある部材をひとつおくれよと頼んでみると。奴め、そんな中途半端をやるより最初から全部頑丈なもんを作ってやると驚くべき事をいうではないか。
生唾を嚥下したのち俺は、俺の望みを紙に描いてファックスを送り、全てを竹中に託す事にしたのだった。

それから数ヶ月経った今日、遂に完成した自作リトグラフマシーンが俺の4畳半に重量10キロのボディを横たえた。
もどかしくも厳重に梱包された段ボールを引き裂いて漸く姿を見せたそれは、まさにマキナ(機械)そのものだった。一切の無駄の無いスリムな形状は部屋の中で咲いた異境の美術作品のようだ。
ステンレス、アルミ、スチールそして木を用いている。どれも丁寧に加工されているが、特にステンレスの美しさとすべすべ感に思わず魅了される。

アルミ、スチール、ステンレス、木材の複合構造。上部10個(多い!)で圧の調節。本体の下、左右に足をかけて挟んだベットプレート(合板)を手前に引き寄せ、両足を踏み込む。それによってスキージが版と紙の上を移動し刷る事が可能という仕組みなのです。板は外れるし、本体は立てかける事も可能。天才?

真ん中が微妙に弓なりになっているのは、あまりに強力な締める力により鉄の部材が曲がってしまった為。友人は版画に不案内な為、ここまで力を加えなければならないというのがどうにも分からなかったらしく、むしろ使い易さの為に強度を犠牲にして軽量化を計った優しさ設計が徒となった。
部材は悲鳴をあげているが、まだいけそうなので、壊れるまで使う事にします。

弓なっている。板が滑り易いようにステンレス加工されているのが憎い。
最近大きいの描いてなかったので、昔のを刷ってみた。



これA3サイズだからかなりでかい。これを家で刷れる喜びと来たら。
やや刷りムラがあるが、それは今後の調節で潰していくとしよう。
それにしてもリトグラフ知らない人が作った刷り機でここまで刷れたというのが面白い。




ハンズでタモ材を買って加工してもらい。取り付けた。
高級感が出た

作業の手順を紹介


製版インクを綺麗に落とす。薬局で売っているベンジンが安くてよく取れる。



 インクを乗せる。コロコロとローラーを転がし出来るだけ均等にインクを盛っていく。

ドライヤーで水気を吹き飛ばす。

トンボと呼ばれる自作の道具を使って紙を版に当てる。大きい版の場合、紙を角に合わせるやり方だと誤差が出易く、絵がズレてしまうので、このトンボの下の棒にミシン針を二本取り付け、その二本の針と同じ間隔でアルミ版のに穴を二つ打つ。紙にその二本の針を刺し通し、針先を版の穴に当て、紙をそっと版上に落とす。そうする事で版ズレが生じにくくなる。


チンバンと呼ばれる、板を乗せる。グリスがたっぷり塗ってありベタベタ。


圧の調整。目一杯ボルトを締める。まずは左右のハンドルを限界まで回し、次いで中央のボルトを締め中だるみにカツを入れる。
いい感じのハンドルは百円ショップのモンキーレンチをボルトにくっつけたのだ。

足をプレス機にかけ、思いっきりを引っ張る。なるべく止同じスピードで滑らせないとムラになる。

チビの身の丈の限界まで足をお伸ばしプレスを踏みしめ、台を引っぱる。これがかなりキツく、このまま脳の血管が切れて死ぬのではないかと思う程。プレス機下にキャスター台を付けて負担を軽減した。





刷る上がり。ここまで6版。あと2版ほどで完成するはず


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